医療経営にデータ志向が求められる時代に
~医療業界における「制度改革」と「見える化」~
社会保障制度改革の青写真
団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、医療と介護の一体的な改革が急ピッチで進められています。その改革の青写真と言えるのが、平成25年8月に公表された「社会保障制度改革国民会議 報告書 *1)」(以下「報告書」)です。「社会保障制度改革国民会議」は、与野党三党合意を経て成立した「社会保障制度改革推進法」に基づいて平成24年11月に設置され、有識者による報告書がとりまとめられた後、設置期限を迎えて廃止されました。
「報告書」において、社会保障4分野に関する改革の各論は3つの章からなり、タイトルはそれぞれ、「Ⅰ少子化対策分野の改革」、「Ⅱ医療・介護分野の改革」、「Ⅲ年金分野の改革」、となっています。「Ⅱ医療・介護分野の改革」の中では、ここ数年の間に実施されてきた個別施策の考え方が示されています。例えば、平成26年度に創設された「病床機能報告制度」については、報告制度を早急に導入した上で、平成30年度の医療計画策定時期を待たず、速やかに「地域医療構想」を策定することが望ましいと指摘されています。また、提供体制の改革に資する財政支援の手法として、全国一律に設定される診療報酬・介護報酬とは異なる、消費税増収分を財源とする基金方式「地域医療介護総合確保基金」の妥当性について指摘されています。
データによる制御機構
「報告書」では、個別政策の言及にあたって、改革が求められる背景について解説がなされています。その中に、「医療問題の日本的特徴」を詳説している項があり、ここから「データによる制御機構」についてふれられている部分を抜粋したものが図表1になります。この中の主要なキーワードをまとめると、「質の高いサービスを効率的に提供」するためには、「医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消」する必要があり、その実現に向けては「客観的データに基づく政策」、つまりは「市場の力でもなく」「政府の力でもない」「データによる制御機構」の確立が望まれる、と解釈することができます。
「データによる制御機構」は、「第14回 社会保障制度改革国民会議 *2)」での永井委員(自治医科大学学長)の提言を基にまとめられた方策ですが、この提言を一つの契機として、制度改革にデータの見える化を活用する機運が高まってきたとみることができます。
地域ごとの医療提供体制改革を実現させるために
図表2は、目指すべき医療提供体制について、国全体の方向性と地域ごとの方向性との間に、乖離が生じるケースがあることを示した一例となります。現在そして将来における医療の需給状況には地域差があり、地域ごとの医療提供体制の改革を進めていくためには、まずは地域ごとに目指すべき方向性や課題を、ステークホルダー全体(患者側、医療提供側、政策立案側等)で、適切に共有しておく必要があることを示唆しています。これは、「報告書」で提言されている「ご当地医療」のあるべき姿、更にはあるべき姿を実現する財政支援手法としての基金の効果的・効率的な活用、といった議論につながっていきます。また、地域の状況を適切に把握して課題解決に向けた合意形成を図っていくためには、共通の言語(ツール)が必要となってきますが、その役割の一部を今後はデータが担っていくと考えられます。
平成29年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」の中に、厚生労働省の「データヘルス改革」を支える「データ利活用基盤の構築」が盛り込まれました。「データ利活用基盤」の一つである「保健医療データプラットフォーム」は、2020年度の本格運用を目指し、工程表 *3)に沿って計画が進められています。このプラットフォームでは、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)、介護保険総合データベース、DPCデータベース等の公的データベースに対する「検索・提供サービス」、「連結解析用サービス」が提供される見通しです。
医療業界におけるデータ利活用の潮流の中で、データの整備・公開が今後更に進み、データを共通言語として利用するケースが増えてくると想像されます。従って、各医療機関においても、データの見える化を通して状況を適切に把握し、様々なステークホルダーと共通の視線でコニュニケーションを図っていく力が、今後ますます求められるようになっていくと思われます。
(2)医療問題の日本的特徴
(前略)
しかしながら、高齢化の進展により更に変化する医療ニーズと医療提供体制のミスマッチを解消することができれば、同じ負担の水準であっても、現在の医療とは異なる質の高いサービスを効率的に提供できることになる。2008(平成20)年の社会保障国民会議から5年経ったが、あの時の提言が実現されているようには見えないという声が医療現場からも多く、ゆえに、当国民会議には多方面から大きな期待が寄せられてきた。さらには、医療政策に対して国の力がさほど強くない日本の状況に鑑み、データの可視化を通じた客観的データに基づく政策、つまりは、医療消費の格差を招来する市場の力でもなく、提供体制側の創意工夫を阻害するおそれがある政府の力でもないものとして、データによる制御機構をもって医療ニーズと提供体制のマッチングを図るシステムの確立を要請する声が上がっていることにも留意せねばならない。そして、そうしたシステムの下では、医療専門職集団の自己規律も、社会から一層強く求められることは言うまでもない。
(後略)
参考資料
- 「社会保障制度改革国民会議 報告書」(首相官邸)
- 「第14回 社会保障制度改革国民会議 議事録」(首相官邸)
- 「データヘルス改革推進計画・工程表 (データヘルス改革推進本部)」(厚生労働省)