概説

医療需要予測における受療率

ここでは、医療需要予測に用いられる受療率について考えてみたい。

論点

医療需要予測では一般に、
 Σ ([性別・年齢階級別・人口] x [性別・年齢階級別・傷病分類別・受療率])
が用いられる。
例えば、2015年から2040年の推計人口に対して、平成23年の受療率を掛けあわせる、といった具合である。
この計算においては、「受療率が将来にわたって変化しない」ことを仮定していることになるが、この仮定に基づいた予測結果は適切であると考えて良いだろうか?
この論点について、直近の受療率データを用いて検討してみたい。

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受療率の推移

図表1における「図表1-図1」は、平成20年から平成26にかけての入院受療率の推移、及び年平均成長率を示したものである。直近のデータを見る限り、入院受療率は年平均2.2%のマイナス・トレンドになっていることがわかる。図表2をみると、直近に限らず10年以上にわたって、入院受療率はマイナス・トレンドになっていることが確認できる。

直近のデータをもう一歩掘り下げてみると、年齢階級別では後期高齢者の入院受療率が大きく低下しており(図表1-図2参照)、更に後期高齢者の循環器系疾患の入院受療率が大きく低下しており(図表1-図3参照)、全体の入院受療率低下に大きく影響していると想像される。

入院受療率(延患者数)は患者数と在院日数から構成され、検証されてはいないものの図表3に示すような要因が入院受療率に影響を与えていると想像される。図表3に示すような状況は今後もしばらく続くと見られ、患者数の減少、在院日数の短縮(図表4参照)に伴って入院受療率の減少が続くものと想像される。


図表1:受療率の推移(見える化ツール)



図表2:受療率の年次推移

treatment-rate-transition

出所:「平成26年(2014)患者調査の概況」(厚生労働省)

図表3:受療率の低下要因
受療率(延患者数)
の低下
患者数の減少 予防医療の進展、経済的事情による受診抑制、等
在院日数の短縮 医療技術の進展、診療報酬等による在宅医療への誘導、等

図表4:平均在院日数の年次推移

length-of-stay-transition

出所:「平成26年(2014)患者調査の概況」(厚生労働省)

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論点再考

『「受療率が将来にわたって変化しない」ことを仮定した予測結果は適切であるか』といった論点に対して、直近の入院受療率が年平均2.2%のマイナス・トレンドであるという事象をぶつけると、予測結果は「必ずしも適切ではない」といった結論が導出されると思われる。
この際に考えられる対応策としては、年平均2.2%のマイナス・トレンドを将来の入院受療率に反映させるといった発想ではないだろうか?

そこで、年平均成長率-2.2%を使って将来の入院受療率を複利計算してみたものが図表5である。
男性については、2014年時点で1058人(10万人当たり)の入院受療率が2045年には531人に、女性については、2014年時点で962人の入院受療率が2045年には483人に、31年でほぼ半減する計算となり、現在の入院医療の在り方の延長線上においては、この計算結果を入院受療率として扱うことは妥当とは言えないように思われる。

ここで、2つの案を図表6のにように整理して、論点に対する答えを出してみたい。
本来はA案とB案の折衷案が定義できればよいが、恣意性を排除したA案とB案の折衷推計モデルの定義は難しいと考えられ、実務的には、(公開が見込まれる)平成27年国勢調査の結果に基づく推計人口に対して平成26年患者調査の結果に基づく受療率を掛け合わせる方法(A案)が好ましいように思われる。


図表5:CAGR(-2.2%)を用いた成り行き受療率予測
性別 2014年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年
男性
1058.2 1034.9 926.0 828.5 741.3 663.3 593.4 531.0
女性
962.4 941.2 842.1 753.5 674.2 603.2 539.7 482.9

図表6:入院受療率の扱いに関する評価
入院受療率の扱い 評価 相対評価
A
変化させない 適切とは言えない
B
CAGRを使って補正する 妥当とは言えない

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結語

機械学習領域では様々な影響因子を踏まえた予測モデルの構築が可能となってきている。
医療需要予測においても機械学習領域の成果が取り入れられ、予測結果が自由に使えるデータ形式で公開されるようになることを期待したい。

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余談

余談であるが、都道府県別に入院受療率をみると西高東低の偏りがみられ、ほぼ全ての都道府県で同じような受療率減少の傾向がみられる(図表7参照)。
なお西高東低の偏りについては、地域医療構想に基づく施策進行に伴い、偏りが解消されていくと想像される。


図表7:都道府県別の受療率(見える化ツール)


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データについて

年度 データ名称
受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(入院)
受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(外来)
受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(入院)
受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(外来)
[福島県分] 受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来別
受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(入院)
受療率(人口10万対),性・年齢階級 × 傷病大分類 × 入院-外来・都道府県別(外来)

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