地域における医療提供状況の把握が欠かせない時代へ
~診療行為の地域間比較ができる標準化レセプト出現比データ~
医療計画で現状把握に用いられるデータ・セット
医療・介護に関わる様々な制度が同時に改定される平成30年の“惑星直列”に向けて、各都道府県において第7次医療計画の策定が進められています。医療計画は、「医療計画について(厚生労働省医政局長通知)」、「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について(厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)」(以下「課長通知」)、を参考としながら策定されていくことになります。
「課長通知」の中では、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握するためのデータとして、「(1)人口動態統計」から「(15)介護給付費実態調査」まで、15個のデータ・セットが示されています。15個のデータ・セットの内の三つ、①病床機能報告、②レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)、③診断群分類(DPC)データは、平成29年の「課長通知」で新たに追加されたものとなります *1)。
標準化レセプト出現比を用いた地域間比較
都道府県の医療計画策定を支援するために、国が都道府県に提供する指標化された加工データは、一般に都道府県の担当者等でなければ触ることができません。しかしながら、国が都道府県に提供するデータと同様のデータが、一般にも公開されるようになってきています。そこで、ここではその内の一つである、SCR(Standardized Claim Ratio: 年齢調整標準化レセプト出現比) *2)について、見ていきたいと思います。
SCRとは、地域間の医療提供状況を比較できるように、NDB(National Database: レセプト情報・特定健診等情報データベース)のレセプト出現件数を年齢調整したスコアのことを指します。SCRは、スコアが100であれば全国平均となるように設計されており、100よりも高ければ全国平均よりも多く、100よりも低ければ全国平均より少なく、医療行為が提供されていることを意味します。なお、地域での医療行為を過剰とみるべきか/不足とみるべきか、充実とみるべきか/抑制的とみるべきか等、スコアの捉え方は個別の医療行為によって異なってくるため、スコアの高低だけでは評価できない点に注意が必要となります。
医療機関が地域の要請に応えるために
SCRデータによってどのようなものが見えてくるのかイメージを掴むために、地域差の見える化の一例として、5疾病「がん分野」の中の「がん性疼痛緩和指導管理料(緩和ケアに係る研修を受けた保険医)」(以下「がん性疼痛緩和」)を見てみたいと思います。
「がん性疼痛緩和」は、平成26年度の診療報酬の中で『(前略)医師ががん性疼痛の症状緩和を目的として麻薬を投与しているがん患者に対して、WHO方式のがん性疼痛の治療法(中略)に従って、副作用対策等を含めた計画的な治療管理を継続して行い、療養上必要な指導を行った場合に、月1回に限り(中略)算定する。(後略)』とされています。がん対策において緩和ケアの充実は重点的に取り組むべき課題とされており、「がん性疼痛緩和」はその内の一つに位置づけられます。「課長通知」においては、「疼痛等に対する緩和ケアの実施状況」が在宅療養支援機能の項目の一つとして示されており、「課長通知」(別表)「がんの医療体制構築に係る現状把握のための指標例」の中では、「がん性疼痛緩和の実施件数」(図表1参照)が指標例として示されています。加えて、図表中の●は重要指標であり、各都道府県の医療計画において、地域の医療提供体制を客観的に把握する指標として採用される可能性が高いと考えられます。
図表2は、「がん性疼痛緩和」の二次医療圏別SCRを地図上での塗り分けによって見える化したものです。塗り分け地図を見ると全国平均(100)を大きく下回る地域が多数あることが分かります。医療計画の目的の一つに、医療の均てん化(地域格差の是正)があります。従って、医療計画において課題として取り上げられた項目については、個別の医療機関での対応が迫られるケースが出てくると想像されます(例えば、今回見てきた「がん性疼痛緩和」の充実が地域での課題とされた場合には、提供体制の強化が迫られる等)。
今後、医療を取り巻く環境は激変が予想されます。医療機関として地域の要請に応えていくためには、質・量ともに増え続けるデータを活用して、地域の医療提供状況を客観的に把握しておく必要性が高まっていくと思われます。
参考資料
- 「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」(厚生労働省)
- 「経済・財政と暮らしの指標「見える化」ポータルサイト」(内閣府)