概説

新たな地域医療構想の方向性

~変化する医療ニーズに対応する地域医療の未来~

「新たな地域医療構想」の背景と目的

「社会保障審議会医療部会」が取りまとめた「医療提供体制の改革に関する意見」(令和4年12月28日)では、地域医療構想について以下の視点が示されました:

・現在は2025年までの取組となっているが、病院のみならずかかりつけ医機能や在宅医療等を対象に取り込み、議論を進めた上で、慢性疾患を有する高齢者の増加や生産年齢人口の減少が加速していく2040年頃までを視野に入れてバージョンアップを行う必要がある。
医療提供体制の改革に関する意見」抜粋

この視点を踏まえ、「第107回社会保障審議会医療部会」(令和6年3月21日)にて「新たな地域医療構想」の主な検討事項や検討体制が確認されました。これを受け、長期的な視点から医療提供体制を検討するため、「新たな地域医療構想等に関する検討会」が設置され、令和6年3月29日に第1回検討会が開催されました。

新たな地域医療構想等に関する検討会 開催要綱」では、検討会の目的や検討事項が示されています。主な目的は以下の通りです:

  • 高齢化への対応
    85歳以上の高齢者増加に伴う医療・介護の複合ニーズへの対応
  • 人口構造変化への適応
    現役世代減少に対応した持続可能な医療提供体制の確立
  • 包括的医療体制の構築
    病院、かかりつけ医機能、在宅医療、医療・介護連携を含めた地域全体の医療提供体制の検討
  • 医療機関の機能最適化
    機能分化と連携を通じた効率的で質の高い医療提供体制の確保

なお、現行の地域医療構想については、既設の「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」にて検討されることになっています。

2040年を見据えた基本方針

第7回新たな地域医療構想等に関する検討会」(令和6年8月26日)において、事務局から「2040年頃を見据えた目指すべき医療」が提示されました。この中で、「医療介護総合確保方針の別添」に基づく「目指すべき医療提供体制の基本的な考え方(案)」と「新たな地域医療構想の基本的な方向性(案)」が示され、総論として承認されました。第8回以降の検討会では、これらの方針に基づいた具体的な議論が展開される見込みです。

「新たな地域医療構想の基本的な方向性(案)」は、以下の3つの重要な考え方を基盤として構築されています:

  • 地域全体を俯瞰した構想
    地域の患者・要介護者を支えられる地域全体を俯瞰した構想、特に高齢者救急、在宅医療など、2040年頃を見据えた課題に対応するための医療提供体制全体の地域医療構想の策定をする。
  • 医療機関機能に着目した体制構築
    医療機関機能に着目した医療提供体制の構築、病床機能だけでなく、急性期医療の提供、高齢者救急の受皿、在宅医療提供の拠点など、医療機関の役割も踏まえた医療提供体制を構築する。
  • 効率的な医療提供の実現
    限られたマンパワーにおけるより効率的な医療提供の実現ということで、医療DX、働き方改革、医療・介護の連携強化などを通じて持続可能な医療提供体制モデルを確立する。

新たな地域医療構想の基本的な方向性(案)

出所:「新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について」(第7回新たな地域医療構想等に関する検討会)

主要な課題と対策

「新たな地域医療構想」の実現に向けて、「目指すべき医療提供体制の基本的な考え方(案)」では以下の4つの具体的な方向性が示されています:

高齢者救急への対応強化

  • 軽症・中等症を中心とした高齢者の救急受入体制の強化
  • 入院早期からのリハビリテーション提供による早期退院支援
  • 在宅・高齢者施設等と地域医療機関の連携強化
  • かかりつけ医機能の発揮による救急搬送と状態悪化の抑制

在宅医療の体制強化

  • 24時間体制の在宅医療提供体制の構築
  • オンライン診療の積極的活用
  • 介護サービスとの連携強化
  • かかりつけ医機能を活かした効果的な外来医療体制の構築

医療の質とマンパワーの確保

  • 症例と医師の集約による高度医療・救急医療提供体制の効率化
  • 医師の継続的な研鑽機会の確保
  • 医療従事者の働き方改革の推進

過疎地域における医療機能の維持

  • 拠点医療機関からの計画的な医師派遣
  • 定期的な巡回診療の実施
  • ICT技術の効果的活用

これらの方向性は、2040年以降も全ての地域・世代の患者が適切な医療・介護を受けられ、同時に医療従事者も持続可能な働き方を実現できる医療提供体制の構築を目指しています。

地域医療介護総合確保基金の役割

地域医療介護総合確保基金は、「新たな地域医療構想」の主な検討事項に対して重要な役割を果たします。「第107回社会保障審議会医療部会」(令和6年3月21日)で示された「新たな地域医療構想」の主な検討事項は、以下の通りです:

  • 2040年頃を見据えた医療提供体制のモデル
    地域の類型(都市部、過疎地等)ごとの医療需要の変化に対応する医療提供体制のモデル(医療DX、遠隔医療等の取組の反映) 等
  • 病床の機能分化・連携の更なる推進
    病床の将来推計、病床必要量と基準病床数の関係、病床機能報告、構想区域・調整会議の見直し 等
  • 地域における入院・外来・在宅等を含めた医療提供体制の議論
    医療機関の役割分担・連携のあり方、将来推計、医療機関からの機能報告、構想区域・調整会議の見直し 等

地域医療介護総合確保基金の主な役割

  1. 病床の機能分化・連携のさらなる推進のための財源確保
  2. 地域における入院・外来・在宅等を含む包括的な医療提供体制の整備
  3. 医療DXや遠隔医療等の革新的な取り組みの推進
  4. 地域の特性に応じた柔軟な医療提供体制の構築支援

「新たな地域医療構想」の検討事項には、この基金の活用方法の改善が含まれています。基金の効果的な運用は、地域の医療提供体制の再構築に不可欠です。この基金を戦略的に活用することで、2040年を見据えた持続可能な医療提供体制の実現が期待されます。

基金の具体的な活用事例

  1. 病床機能分化・連携推進事業
  2. 看護師・薬剤師の確保・再就業支援事業
  3. 遠隔医療促進事業
  4. ドクターヘリ搭乗医師・看護師養成事業

各個別事業の詳細は、「医療介護基金事業まるみえくん」でご確認いただけます。
新たな地域医療構想の主な検討事項(案)

出所:「地域医療構想の更なる推進について」(第107回社会保障審議会医療部会)

「新たな地域医療構想」の実現に向けた情報源

「新たな地域医療構想」の実現には、地域の実情に応じた柔軟な対応と地域医療介護総合確保基金の戦略的活用が鍵となります。基金の詳細は、「地域医療介護総合確保基金」解説冊子をご覧ください。

令和6年度の診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟入院料」は、高齢者の軽症・中等症救急への対応と在宅復帰支援を目的としています。この改定は、「新たな地域医療構想」実現に向けた重要施策の一つで、地域医療機関の役割分担と連携を促進します。当社では、「地域包括医療病棟入院料」届出施設一覧データをご提供しており、地域医療構想の策定に役立つ情報源となっています。

地域医療介護総合確保基金は、地域の医療・介護サービス提供体制の改革を支援し、各都道府県の創意工夫を活かした事業実施を可能にしています。主な活用例として、病床機能分化・連携推進事業、医療従事者の確保・再就業支援事業、遠隔医療促進事業などがあります。

 「地域医療介護総合確保基金」解説冊子のご購入はこちら
 「地域包括医療病棟入院料」届出受理施設一覧データのご購入はこちら

ご紹介した情報を含め、様々な知見やデータを活用し、各地域の特性に応じた効果的な医療提供体制の構築を進めることが重要です。「新たな地域医療構想」の実現に向けては、関係者間の連携をさらに強化し、長期的に持続可能な医療システムの確立を目指す継続的かつ戦略的な取り組みが求められています。

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