医療施設間の相対的位置付け把握が欠かせない時代へ
~急性期医療に関する時系列推移が見えてくるDPC公開データ~
個別の医療機関に関するデータ・セット
地域の医療提供状況を客観的に把握できるデータ・セットとしては、需要推計の拠り所として利用できる「患者調査」から、病床数や医療従事者数等の地域別分布状況がわかる「医療施設調査」、「病院報告」まで、多くのデータがe-Statを介して厚生労働省から公開されています。また、これら統計表の一部は、内閣官房(まち・ひと・しごと創生本部事務局)が提供するRESAS *1)の中で、各種チャートに加工された形で見ることもできます。
e-Statを介して公開されるデータは、都道府県/二次医療圏/市区町村等の地域単位の統計データであり、統計データの基となっている施設間の違いまで把握できるものではありません。しかしながら、医療の領域においては個別の医療機関がどのような医療を提供しているのか、かなり詳細に把握できるデータが公開されるようになってきています。その代表的なものとしては、「医療情報ネット(医療機能情報提供制度)」、「病床機能報告」、「DPC公開データ(DPC導入の影響評価に係る調査)」があります。
急性期医療の情報が濃密なDPC公開データ
個別の医療機関に関するデータは、容易に比較ができるように加工された上で公開されているわけではなく、一般には個別にデータを収集した上で相応の加工が必要となります。ところが、DPC公開データは、多くの加工をしなくても施設間の比較ができるような形式で公開されています。ここでは、そのDPC公開データについて見ていきたいと思います。
DPC公開データとは、DPC参加病院が提出したデータを、個別患者の特定ができないように集計した上で、DPC評価分科会 *2)において報告され、厚生労働省のサイトで公開されるデータのことを指します。平成27年度のDPC対象病院は、「厚生労働大臣が指定する病院の病棟並びに厚生労働大臣が定める病院、基礎係数、暫定調整係数、機能評価係数Ⅰ及び機能評価係数Ⅱの一部を改正する件(平成27年3月19日厚生労働省告示第73号)」によると、Ⅰ群80施設、Ⅱ群99施設、Ⅲ群1,406施設であり、合計1,585施設となります。しかしながら、調査への参加病院は、DPC準備病院、診療報酬上のデータ提出加算届け出病院も含まれるため、平成27年度のDPC公開データに含まれる調査対象施設数は、3,191施設となっています。これは、一般病院7,416施設 *3)に対して約43%であり、調査対象病床数588千床は、一般病床894千床 *3)に対して約66%となります。一般病床には、回復期/慢性期相当の病床も含まれるため、DPC公開データは急性期医療について悉皆性が高いとみることができます。
医療機関が地域の急性期医療の要請に応えるために
DPC公開データによってどのようなものが見えてくるのかイメージを掴むために、施設間比較の見える化の一例として、入院患者の経路(救急搬送/紹介)について見てみたいと思います。
入院患者の経路としては、(1)救急搬送、(2)紹介、(3)外来、があげられますが、その内の(1)と(2)については、図表1(a)、(b)のような形式で医療機関別のデータが公開されています。図表2は、このデータを使って救急搬送/紹介の「率と件数」を算出し、平成22年度から平成26年度の推移を折れ線グラフによって見える化したものです。このような見える化によって医療機関の特徴を類型化して捉えることができるようになります(例えば、紹介がほぼ全てのケース(E病院)、救急搬送が多いケース(C病院)、救急搬送と紹介がほぼ半々のケース(B病院)、紹介が多く更に紹介が増えてきているケース(A病院)、救急搬送が増えてきているケース(D病院)等)。
急性期医療を取り巻く長期的トレンドとしては、人口減少と高齢化を主因とする急性期医療需要の縮小があります。これは、競合を含めた外部環境の変化に対して何も手を打たなければ、病床の稼働率が下がっていくことを意味します。今後は、地域における相対的位置づけを適切に把握するとともに、地域の中でどのような機能を担っていくのか(例えば、得意疾患領域を強化して紹介患者を増やす、サブ・アキュート等の受け入れ体制を強化して救急搬送患者を増やす等)中長期的な視野でみた方策の必要性が高まっていくと思われます。
参考資料
- 「RESAS(地域経済分析システム)」(内閣官房)
- 「中央社会保険医療協議会 DPC評価分科会」(厚生労働省)
- 「医療施設動態調査(平成27年9月末概数)」(厚生労働省)